INTERVIEW
2018/05/01
管理栄養士、丹後バル主催
関 奈央弥さん
海の京都”と呼ばれる、京都府北部に位置する京丹後市。海、山、川といった豊かな自然に囲まれた丹後から生産される食材の魅力を、生産者のオモイと共に届けるブランド「丹後バル」を運営する関奈央弥さんに今回はお話を伺いました。
高校までサッカーに熱中していた関さん。選手としてプロになるのは難しかったが、何か関われる方法はないかと考える中、スポーツ栄養士の存在を知り、栄養学を学ぶために大学へ進学。しかし、スポーツ栄養士になるのはとても狭き門だということが次第にわかり、進路に悩む中、授業で知った日本が抱える生活習慣病や医療費の問題が心に引っ掛かっていた。食を通して社会に役立つことはできないか、そんな思いを抱くようになり、卒業後は東京都の小学校で管理栄養士として働くことを選ぶ。
仕事自体は楽しかったが、3年ほど働いていく中で、管理栄養士の社会的地位の低さやキャリアアップの難しさを感じ、今後の働き方に対するモヤモヤした思いが芽生え始める。そんな中、フリーランスとして働く管理栄養士の方に会いに行ったところ、食関連のベンチャー企業を紹介され、新しい視点を取り入れるべく社会人インターンとして働かせてもらうことになった。そこで出会ったのは、志を持って全力で働くエネルギッシュな人々だった。3ケ月という期間ではあったが、そんな人々から大きな影響を受け、『自分もやりきろう!』そう心に誓い、改めて自分が本当にやりたいことを見つめ直す。
いつかは地元の丹後に帰ろうという気持ちがあったこともあり、その年の夏、地元丹後で行われた定置網漁の体験に初めて参加した。そこで見た漁師の方々の姿、そして大漁の魚たちを目の当たりにし、改めて、学校で普段子どもたちに教えていた「いただきます」の意味について考え、命を頂いているという原点に立ち返った。時同じくして、『東北食べる通信』の存在を知る(https://tohokutaberu.me)。単に食材を届ける、食材を伝えるのではなく、その作り手にクローズアップした特集記事とともに食材を届ける。その新しいビジネスモデルに感化され、丹後食べる通信はできないか?と模索を始める。
また、学校での取り組みにもそのアイデアを取り入れることにする。これまでも子供たちに食べものの大切さや栄養などについては伝えていたが、その食べものを誰がどんな風に作って、今ここにあるのかということについては伝えていなかった。そこで、休日に学校給食で扱う食材を作っている農家さんの元を訪れ、生産の背景などを取材し、それを給食時間や授業で子どもたちに伝え始めた。すると、今まで嫌いで食べなかった野菜を子供たちが食べるようになる。そんな変化を目にし、作り手や食のストーリーを伝えることへの思いに確信を得る。
丹後食べる通信を模索すること4ケ月。結果として、ビジネスとしてやっていくことは難しいという判断に至った。けれど、その間に出会った丹後の作り手や丹後の食材に関さん自身が魅了された。そこで、自分たちができることをやろうと何人かの仲間とともに始めたのが丹後バルだ。始めは季節ごとに年4回、丹後の食材についてのストーリーを伝えつつ、実際に味わってもらうイベントを開催。
プロジェクターを使って作り手について紹介する関さん(真ん中)
左:丹後のオーガニック農家「SORA農園」さんの大根、玉ねぎ、エンドウなどのオーガニック野菜をメインに使ったサラダ
右:丹後の養鶏農家「三野牧人」さんの卵を使ったスパニッシュオムレツ
そんな中、友人に紹介されNPO法人ETICが主催する社会起業家のスタートアップ支援を行うSUSANOOプロジェクトに参加。4ケ月間、再度じっくりと自分がやりたいことを考え向き合った。そして、そこで出会った仲間の後押しもあり、プロジェクトを終える頃には、本格的に丹後バルをやっていくことを決意。翌月には5年間務めた学校を辞め、地元京都へ戻ることにした。
京都へ戻ると決めたが丹後バルだけでは食べていけない。以前より親交のあった株式会社カンブライト(https://canbright.co.jp)の社長井上さんに声を掛けていただき、カンブライトが運営する、缶詰を中心とした商品開発のお店、カンナチュール(http://can-naturel.jp/?tid=2&mode=f6)で働きながら、一事業として丹後バルをスタートすることになる。そして1年後の今年2月からは独立して事業を展開することに。
現在は京都や東京などを中心にイベントを開催しながら、活動を通して出会った人々との繋がりをきっかけに、さらに活動の幅を広げつつある。今後は、夏頃を目処に丹後に拠点を移し、丹後の食をはじめ、丹後の人や四季、自然の豊かさなど、丹後の地の利を生かした食育事業をスタートさせようと準備中のようだ。
誰しも始めから大きなことなんてできないのかもしれない。けれど、その思いや行動し続けた先に、いつの日か大きな波となってたくさんの人を巻き込む時がやってくるのでは。模索しながら歩んできた道のりが少しずつ形となり、広がっている関さんの姿を見て、自分自身も背中を押してもらった気がする。
BOOK人生に影響を与えた本