INTERVIEW
2018/04/15
主婦・保育士・小説家志望
諸星久美さん
彼女を知ったのは3年程前。ブログの中で綴られる彼女の言葉に魅了され、一気にファンになったことを覚えています。3児の子育てをしながら、仕事をし、経験ゼロからスタートした執筆活動。42歳にして新人作家としてデビューした諸星久美さんにお話しを伺いました。
27歳で長男を出産。それまで保育士として幼稚園で働いていたこともあり、子供の扱いには慣れているはずだった。しかし、先生として限られた時間子供たちと接するのと、母親としてまだ話せない我が子と24時間過ごすのは全くの別物だった。それが大きなギャップともなり、自分の未熟さゆえに、出来ないことばかりをあげてしまい、自分で自分を責めることで苦しくなっていく。さらに、家の中だけという閉鎖的な世界の中で、社会から断絶されていく感覚も追い討ちを掛けた。睡眠不足で心も体も消耗していく。身体は痩せ細り、思わず涙が溢れる毎日。
しかし、そんな母をよそに我が子はすくすくと成長してしてく。そんな姿を見て、『この子に置いてかれたくない。私も成長したい…』という思いが芽生え、自宅にいながらできるパソコンの通信教育を始めることにする。
パソコンを学ぶことには途中で飽きてしまったが、パチパチとキーボードを叩く文字入力は楽しかった。好きな小説や曲を文字に起こしたり、歌にはならなかったけど路上ライブをしていた旦那さんのために歌詞を書いてみたり。
そうこうしていくうちに、次第に幼少の頃から親しんできた絵本を書いてみようと物語を作り始め、それがどんどん長くなり、小説に近い作品が出来上がっていく。
諸星さんにとって書くことは、
『もともと自己対話好きで、自分を知るために書いているところが強い。書くことで、自分を追い詰め、多くの感情に触れ、醜い面も含めて濃く知ることができる。自分好き過ぎるでしょ(笑)。』
結婚して、母になったことで、〇〇の奥さん、〇〇君のママと呼ばれるようになり、そのことに喜びよりも不満を抱くような天邪鬼な自分がいた。
『何かに属さず自分で立っているものが欲しい。』
朝のちょっとした時間、子供の昼寝中や就寝後、時間を見つけてはパソコンに向かうことが日課になる。書いている時間は、他のすべてが取り除かれ、自分の世界に没頭できる。物語の終わりの「了」を書いた時、新しい快感のような気持ち良さを覚えた。誰かの妻でもなく、母でもない、私として生きられる場所を見つけ、どんどん書くことにのめり込んでいった。
次男の出産を機に一旦は書くことから離れてしまうが、3人目となる長女を出産した頃には子育ての楽しさを見出せるようにもなり、心の余裕ができ、再び書くことを再開する。
3人の子供たちもスクスクと育ちました
そして、改めて書くことの楽しさを再確認しながら書きあげた作品を、ある新人文学賞に送った。数ヶ月後、サイトに発表された結果を見ると、なんと一次選考突破!結果的には、最終選考まで残ることはできなかったが、それでも、筆が走るままに仕上げた作品が一次選考を突破したことで、『書き続ける価値はあるのかな』と励みになったことは間違いない。
旦那さんがノートパソコンをプレゼントしてくれたことで、子供が遊ぶ傍で創作することができるようになり、時間を捻出して、書けるものは何でも書いた。けれど、書けど送れど、一次選考も突破できない日々が続く。
そんなある日、東日本大震災が起きる。たまたまその日、一人で家にいたこともあり、地震で揺れる中、『ああ、ここで終わりか』とこれまでの人生を振り返り、被災地の惨状を伝え見る中である思いを抱く。
『明日生きているかわからない。やれることはやろう。』
これまでいろいろ作品を書いてはきたが、一度も形にしたことはなかった。そこで、数年前は、お金のことやモチベーションが足らず踏み切れずにいた自費出版をすることを決める。本が出来上がっていく過程を知りたかったし、出来上がった本を手に取ってくれた方の反応も知りたかった。
初めて形にしたこの本がきっかけで新たな出会いやチャンスが訪れる。
チャンスが訪れた時に、形にしたものを持っているのは強い、と振り返る。
出来上がった本を持って、置いてくれそうなお店や本屋に飛び込み営業をする日々。冷たくあしらう人もいたが、ちゃんと話を聞いて温かい言葉をかけてくれる人もいた。様々なイベントにも参加し、本を配っていた中、センジュ出版のイベントで、吉満明子さん(センジュ出版代表取締役)と出会ったことから、ノベライズ出版のチャンスを手に入れたのだ。
『初めてのチャレンジはもの凄く怖くて、もの凄く楽しかった。吉満さんを信頼して、踏ん張って、怖さを超えていく中で成長させてもらったと思っている。』
諸星さんにとって、人に出会うことも書き続ける原動力になっていると。
『本という形にして発信することで、書いただけでは終わらずに、日常では会えなかったような人たちとも出会える。そして、その出会いがさらに書くことの楽しさを教えてくれる。』
まだまだスタート地点に立ったばかりだが、小説家を目指している過程も楽しいと言う。
『小説を書くということは、自分にとって最もハードルが高いチャレンジ。難しいからこそ、そこに挑みたい。きっと書くことは一生やめないと思う。』
『今後はオリジナルの小説を書きたいし、小説家としてやっていけるようになりたい。仕事として依頼されることで、自分自身が成長させてもらえるチャンスにもなる。
それに、書いて稼げるようになって、ずっと支えて応援してくれている旦那さんに恩返しがしたい。彼が定年退職した時には、自分が稼いで彼を支えられるようになるのが理想。書くことは、歳をとってもできる。それはイコール、いろんなことにアンテナを張って最期まで生きることでもあるし、そういう人生を送りたいと思っている。』
次に彼女からどんな作品が生まれてくるのか、1ファンとして楽しみに待っている。
NHK総合テレビでドラマ放映もされた『千住クレイジーボーイズ』
かつて一世を風靡したことのある芸人、辰村恵吾(塚本高史さんが演じられています)が、
千住のまちの人たちとの関わりの中で成長していく物語。
千住クレイジーボーイズ
http://www.nhk.or.jp/aachidra/
本の購入はセンジュ出版のサイトにて
http://senju-pub.com/magazine/
BOOK人生に影響を与えた本
1975年8月11日 東京生まれ。東京家政大学短期大学部保育科卒業後、幼稚園勤務を経て結婚。自費出版著書『Snowdome』を執筆し、IID世田谷ものづくり学校内「スノードーム美術館」に置いてもらうなど自ら営業活動も行う。またインディーズ文芸創作誌『Witchenkare』に寄稿したり、東京国際文芸フェスティバルで選書イベントを企画するなど「書くことが出会いを生み、人生を豊かにしてくれている!」という想いを抱いて日々を生きる、3児の母。2017年8月25日、センジュ出版より『千住クレイジーボーイズ』ノベライズ本出版。オーディナリー編集部所属。