INTERVIEW
2018/10/01
NPO団体メンバー / キュレーター / 編集
海野千尋さん
現在、3歳になる娘さんを育てながら、2つのNPO法人“ArrowArrow”と“二枚目の名刺”のメンバーとして、家族をテーマにご自身が立ち上げた“ネオ・ファミリースタイル学”のキュレーターと3つの肩書きを持ちながら活動する海野さん。これからますます増えていくだろうパラレルワーク。なぜ彼女が現在の働き方に至ったのか、今回お話を伺いました。
『20代後半、ずっとモヤモヤした気持ちを抱いていた。』
大学卒業後、メディアの世界に飛び込み、営業から編集などフルスロットで駆け抜けてきた。
しかし、そんな激務の影響が身体に現れ、ついには入院を余儀なくされる。
“このままでいいのか?”というモヤモヤが渦巻き、そのまま一旦仕事を辞めた。
そんな時、東日本大震災が起きる。震災ボランティアに行った先で、誰かのために自分ができることをする、というとてもシンプルな視点だけで様々な立場の人が集まりみんなでサポートする体験をできたことは大きかった。
そもそも仕事のスタートは誰かの何かを助けたい、誰かのためのサービスだったり、最後に使っている人の顔が見えたりするはずだけど、震災前までの仕事のあり方は、そんな体感をすることはなく、自分が成長したい、こういう仕事をやりたいという自分目線で仕事をし、その結果として対価を得ていた。
震災を機に大きく仕事に対する視点が変わり、そこからいろんな場所に行って、いろんな人の話を聞こうと思い行動する。その中で、ArrowArrow代表の堀江由香里さんが教授となり行なっていた自由大学の“生き方デザイン学”という講義に参加をする。
ArrowArrowは『子育てや介護等の理由に左右されず、選択肢あふれる社会の創造』をビジョンに掲げ活動しているNPO法人で、妊娠・第一子誕生のタイミングで女性の6割〜7割の人が会社を辞めていること、しかも働きたいけれど働けない人のパーセントも多いというデータを知り、ハッとする。
これまで将来を考える時、仕事のことや自分だけのことならいくらでも思い描けるが、結婚・出産となるとまったくの空白になってしまう自分がいた。結婚・出産をどう自分の人生に組み込んだらいいのか、そもそも自分がしたいのかもわからなかった。
講義に参加したことで、これまで抱えていたモヤモヤの正体に気付き、しかもそのモヤモヤが個人の問題ではなく、現代に働く女性が抱えるモヤモヤでもあることを知る。
ArrowArrowのビジョンに賛同し、活動に参加したいと手を挙げ、一緒に働き始める。
Arrow Arrow5周年記念のイベントにて(真ん中が堀江さん、その左が海野さん)
これまでの働き方といえば、長時間労働は当たり前、心身ともに傾けて仕事をし、最終的には自分でコントロールが効かなくなって身体を壊したという経緯もあり、震災以降、働き方も模索していた。
その中で、『ナリワイをつくる』という一冊の本に出会う。
東京都内で月30万稼いで生きていくのに、一つの仕事で30万を稼ぐのではなく、複数の仕事で30万を稼ぐという新たな働き方を提唱しており、その考えにとても共感をした。
前と同じ失敗を繰り返さないためにも、新たなチャレンジとして、ArrowArrowで働くと同時に、編集とライティングの仕事も並行して行うようになる。
その後、ビジョンに共感したNPO法人・二枚目の名刺の活動にも参加するようになり、バランスなどを少しずつ変えながら、大人の学びの場自由大学(https://freedom-univ.com/)で家族をテーマにした講義も新たに立ち上げ、現在は今の3つの肩書きとなった。
今仕事をしていて気持ちいいし、楽しいのは、
『何のために仕事をしているのか、何のためにこの場所にいるのかがそれぞれの仕事に対してすごくクリアで自覚的で、働く意味を自分の言葉に落とせているから。だから、今は仕事においてモヤモヤした気持ちはない。』
その背景には、NPOで働いたことも大きかったようだ。
『NPOで働くことは企業で働くことと変わらないはずだが、そこにいる人の顔がよく見えた。企業の誰々ではなく、一個人として向き合い、その人のパーソナルな考え方をよく聞いたし、社会課題に対しての当事者意識と実行を合わせて言葉にできている人が多くて、対話をしていてそれがすごく気持ちがよかった。』
『そういった人たちに触れていると、当然のように、“あなたはなぜこの場所にいるのか、なぜこの活動に関わろうとしているのか”を言語化しないと入っていけないから、そこを意識して取り組んでいたし、自然とそうなってきた。』
パラレルで働くことにおいては、面白さと難しさが混同するとも言う。
『なぜなら、自分は何ができるのか、ということをクリアにせざる負えない環境にはあると思う。複数の場所で働くには、自分がその組織で何ができ、どう貢献できるかを明確に言語化したり行動で提示できないといけないため、常に自分は何ができるのか、何を学ばなければいけないのかを意識して自分のマネジメントをする必要がある。』
一方で『知らないことを知り、深めていく楽しさだったり、一社だけで働くことでは得られないことを学んだりチャレンジすることで、自分の成長にも繋がり、人間関係も広がる。』
3歳になる娘さんを育てる母でもある海野さん。家族や子育てにおいて意識していることについても聞いてみた。
『毎年12月に家族サミットを開催しています。ベースを握り合ってすり合わせをするために、夫婦が互いにアジェンダをあげて、議事録も取って、家族としてどこへ向かうかを話し合う。定点観測としていつも決まった7つの問いも毎年確認し合うようにしています。』
日常で意識していることとしては、イラっとしたり機嫌が悪い時に、なぜそう思ったのかを確認し合うようにしているとも言う。
夫婦であっても他人だからこそ、相手の考えていることを伝え合う。
また、お話を聞いていて優先順位や大事なことが明確であるとも感じました。
『自分にとって家族がベース。やりたいことがあった時、仕事ありきではなく、家族と過ごす時間や家族が心地よくいられるかを優先して、どういう働き方ができるかを考える。』
家族3人でアートイベントに参加した時の写真
今後の働き方について聞くと、
『今の働き方をずっと続けようとは思っていないし、意識的に変えようと思っている。子供の成長や家族の状況によって、これからも働き方は柔軟にしたい。ただ、今の3つの仕事にも共通している、新しい価値観をつくる場所に関わる仕事を今後もしたいと思っている。』
何のために働くのか、その軸が明白であれば、働き方に拘る必要なんてないのだなと。
これからますます自由な働き方がスタンダードになっていく中、一人ひとりが向き合わなければいけないことは何かをたくさん教えてもらいました。
BOOK人生に影響を与えた本
1981年生まれ。広告代理店/編集プロダクション、ITベンチャー企業とメディア業界の中を渡り「伝えたいことをメディアでどのように伝えていくことができるか」を経験。東日本大震災をきっかけに自分の生き方を再定義し「#新しい働き方・これからの生き方」を自分自身が体現していくことを決める。
現在は、女性の「働く」と妊娠、出産、子育て、介護などの「ライフイベント」とどちらも選びながら働き続けられる選択肢を作るNPO法人ArrowArrowメンバー、2枚目の名刺をもつ社会人を増やし個人や組織/社会を変えていこうとするNPO法人二枚目の名刺メンバー、「家族」にまつわる固定観念を壊すため家族の未来をサーチする「ネオ・ファミリースタイル学」のキュレーターと、3つの肩書きを担う。